東京ガスのガス自由化戦略とは?

2016年の電力自由化に続いて、翌2017年からは都市ガスも自由化になります。
ガス業界は、東日本大震災以降ここ数年の間、全国いたるところの原子力発電所の停止の影響もあって火力発電の割合が増加しており、それに伴って燃料であるガスの供給が増えています。その結果、業績は拡大傾向のまま順調に推移しています。
そんな中で迎えるのが今回の都市ガス自由化です。東京ガスは、この自由化に対してガス事業一本だけに頼らず、従来の垣根を越えた電力小売への参入を目指しています。自由化に対する備えはそれだけでは留まらず、ガスの力で電気やお湯がつくれる「エネファーム」や「エコウィル」、さらには太陽光発電事業の展開など、これまで主力としてきたガス事業に、これらのエコ事業を加えた新たなエネルギーの供給を今後の経営の重要な柱として打ち出しているのです。
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都市ガス業界でシェア40%を有する巨大企業「東京ガス」の自由化戦略とは
東京ガスは都市ガス市場でシェア40%を有し、売上高は2兆円を越えるガス業界のトップ企業です。
東京ガスの供給範囲は東京や神奈川の首都圏を中心に約1100万軒にサービス網を広げています。
この規模の大きさゆえに、自由化で受ける影響もまた大きいと言えます。自由化になれば、これまで寡占状態であった都市ガスの市場に多くの業者が参入してきます。その
結果予想されるのは熾烈な価格競争です。この競争で例えシェアを守れたとしても、これまでと同じだけの売上収入が得られるかどうかについては何の保証もありません。
なぜなら競争の結果、大幅に価格が下落し、収入の大幅減を招くかもしれないからです。そんな事になれば経営が大きな打撃を受けます。万一そうした事態を招いても経営に痛手を与えないようにするためには、もはやガス事業だけに頼ってはいられません。その考えのもとに打ち出された新たな戦略が「電力小売への参入」や「エコ事業の拡充」などなのです。
戦略1:ガス自由化を機にさらなる電力販売へ向けて積極的な取り組み
東京ガスは東京、神奈川を中心に1100万件の顧客を持っています。こうした巨大な顧客層をガスだけに留まらず、電力販売にも活用しようとしているのです。このことは2014年に発表された中期経営戦略にもはっきり打ち出されています。つまり自由化に対する戦略の一つとして「電力販売の拡大」を揚げているのです。
具体的に言いますと、既に販売を展開している工場や大規模施設などに対する年間100億kwhの電力に加え、電力が自由化される2016年には家庭用や業務用にも電力販売を拡大させて、オリンピック開催年の2020年には約300億kwhの電力販売を達成しようとしているのです。これは実に2013年の3倍にも当たる数字であり、首都圏の電力需要の約10%にも相当します。この数字が達成できれば電力販売でも首都圏需要の10%にも及ぶのです。自由化戦略の最も大きな目標がこの数字を実現させることです。
戦略2:ガス売上減をカバーする安定した電力販売の為に電源の増強を図る
積極的な電力販売を展開しようと思っても、肝心な電源がなければ商品である電力を安定的に調達することができません。そのため目指すのは、電源の規模を現在の130万kwから、2020年までに約300万kwへ増強することです。この計画を実現するために運営するのが自社の発電所である神奈川県の扇町パワーステーションの3号機や栃木県真岡市に建設する天然ガス発電所で買取る電力です。こうした東京ガスの都市ガス自由化に対する戦略は2015年から活動を開始しています。
戦略3:ガスと電力を融合させたベストミックスの実現
東京ガスが自由化戦略として打ち出している大きな柱は電力事業の増強です。とはいえ、ただ単に電力事業を増強するのではなく、電力にガスを融合させたベストミックスの実現も目指しています。その具体的な方策としては住宅や建設、それに通信情報業界などと連携をはかり、住宅向けエネルギー管理システムHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)などの提案を積極的に推進することにあります。
これによって家庭にある様々な電化製品をインターネットで繋ぎ、エネルギーを可視化することによって、省エネシステムを構築することも戦略の一つとして捉えています。
東京ガス社長が想定するエネルギー業界再編統合の動きとは?
東京ガスの広瀬社長は、最近の新聞社の取材に対して、「今後は電力・ガス自由化に伴ってエネルギー業界の再編や統合が進むだろう」という自身の見解を述べています。その引き金になる例として、事業売却によって民営化を目論んでいる「仙台市ガス局」を揚げています。これを一つの契機にして、2017年のガス全面自由化を機に業界は再編統合に入り、「全国200以上のガス事業者には生き残りをかけた選択が迫られる」とも予想しています。
ガス自由化では電力会社の参入が容易に予想できるその訳は?
別項でも触れたように、東京ガスはガス自由化戦略の大きな柱に電力販売の増強を打ち出しています。一方、電力会社もガス自由化を黙って見過ごすはずがありません。電力自由化でガス会社が電力販売に進出してくれば、逆に電力会社がガス販売に進出するのです。
一説によれば、東京ガスのようなガス会社が電力業界に参入するより、電力会社によるガス業界進出の方が垣根が低いとされています。それをよく表しているのがLNGともいわれる液化天然ガスの輸入量です。実は驚くなかれ、これを輸入しているのは主として電力会社であり、総輸入量の70%は電力会社が扱っているのです。したがってガス会社より電力会社のほうがたくさんのLNG基地を持っているのは当然のことです。
ということは、ガス会社が電力販売参入に際して発電所を造るより、電力会社が既にあるLNG基地を利用することによって、ガス販売へ参入する方が低コストでできるのです。東京ガスは同じエネルギー分野のライバル企業のこうした動きを注視しながら、来るべきガス自由化に立ち向かおうとしているのです。
東京ガスに次いで業界第2位 大阪ガスの自由化に向けた動きは?
東京ガスがガス業界における東の雄なら、西の雄は大阪ガスです。売り上げ規模も東京ガスに次いで堂々第2位の座についていており3位以下に大きな差をつけています。大阪ガスも東京ガス同様に、来るべきガス自由化に対しては満を持して臨む覚悟を決めているようです。それをよく表すように自由化を好機と捉え、東京ガスに負けじとガスの顧客層に対して積極的な電力販売を開始しています。
目標は自由化初年度に14~20万世帯、さらに4年後の2020年にはガスの顧客10%にあたる70万世帯を電力の顧客として見込んでいます。これを実現するための電力源は、泉北発電所からの供給を中心に、関西電力などの大口売電契約を見直せば確保は問題ないと見ています。東京ガスはこうした大阪ガスの勢いの良さに負けてはいられません。