《世界の電力自由化》北欧4ヶ国に学べる日本の電力自由化事情

2016年4月1日に日本でも電力の小売り全面自由化が始まりましたが、いまひとつ盛り上がりに欠けます。何でいまごろ、という感じもしますし、やるならもっと早くやるべきでしょう、という気持ちにもなります。
2011年の福島原発の事故がきっかけになって反原発運動が起こり、それで電力を見直して、というプロセスを経て、今回の電力自由化が始まる流れならスッと入り込めたはずです。
また、民主党の「2030年代に原発稼働をゼロにする」というスローガンのもとに電力自由化が始まるなら、盛り上がりも違ったかもしれません。それでも、一般の家庭で自分に合った電力会社を選ぶことができるというのは画期的なこと。
電力の安定供給、価格の安さ、再生可能エネルギーへの取り組みといった次世代の電力事情も踏まえて、できるだけ自分の生活に密着した電力会社を選びましょう。そのための参考に、北欧4ヶ国の電力自由化事情を調べることにしました。
北欧4ヶ国は寒冷地域のためにエネルギー問題は必須事項で、しかも自国の資源が乏しいという、政府が関わらざるをえない状況があります。それだけ電力事情は差し迫った問題です。日本の電力自由化事情にも役立つことがあるかもしれません。
北欧4ヶ国(ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フィンランド)の電力自由化事情
読む前に知っておきたいキーワード: ノルドプール
<ノルドプールとは>
北欧4ヶ国共同の電力取引所のこと。
北欧4ヶ国のなかで最初に電力自由化が実現したノルウェー
1991年エネルギー法が制定されて、ノルウェーで電力の小売り全面自由化が実施されました。発電会社と送電会社が誕生し、発電部門では大手の発電会社と中小の発電会社との間で価格競争が展開され、電力を公正に取引ができるように電力取引所が1993年に開設されました。
電力自由化の実現当初は電力会社の変更をする時には手数料が必要だったり、年4回の変更のみ認めるなど制約も多いものでした。
しかし1999年以降、1週間単位の変更も認められるようになり、また発電会社と送電会社別個に支払っていた料金も一本化できるようになって、より変更をしやすい状況に改善されていきました。
スウェーデンが加わって共同の電力取引市場ノルドプールの開設
スウェーデンでは1996年に新電気法が成立し、ノルウェーと共同で電力市場(ノルドプール)を開設しました。ノルドプールの開設、加盟と同時に、スウェーデンも電力の小売り全面自由化が実現しました。
しかし、電力会社を変更する家庭にはスマートメーターという次世代電力量計の設置が要求され、費用も高額だったため当初は電力会社を変更する家庭は少なかったようです。
それが1999年の電気法の改定により、スマートメーターの設置に関係なく電力会社を変更できることが認められ、2003年以降、配電会社が中心となったスマートメーターの普及活動が実って、現在ではほぼ全世帯にスマートメーターが設置されるようになっています。
フィンランド、デンマークのノルドプールの加入
フィンランドは1998年に、デンマークでは西部地域が1997年、東部地域が2000年にノルドプールに加入することで、北欧4ヶ国加盟の電力取引市場が実現することになりました。
ただし、フィンランドとデンマークの電力自由化は加入前後に段階的になされました。フィンランドでは1995年~1997年を通じて徐々に実現され、全面自由化は1997年に達成されました。
デンマークでは1998年~2003年までかかり、2003年にようやく全面自由化が実現されました。
電力自由化の拠点ノルドプール
読む前に知っておきたいキーワード: 再生可能エネルギー
<再生可能エネルギーとは>
太陽光発電、風力発電、水力発電、バイオマス発電(動植物などの生物資源からのエネルギーを利用)、地熱発電(地熱エネルギーを利用)をいう。日本ではわかりやすく自然エネルギーともいう。
ノルドプールのメリット
ノルウェーの電力取引所は、もともと国営の電力会社が送電から配電まで全部を請け負う体制だったものが、送電会社と発電会社に分かれて発電部門での自由競争のために生まれた取引所です。
そこにスウェーデン、デンマーク、フィンランドが加盟することで、北欧4ヶ国共同の電力取引所であるノルドプールができました。ノルドプールがあったから北欧の電力自由化が推進された、ともいえます。
ノルドプールで行われる取引は、2013年の時点で全取引の77%までを占めています。取引は広がる一方でエストニアやリトアニアも加入し、また、ドイツや英国などの取引市場との統合も進められている状況です。
<ノルドプールのメリット>
① 多くの国が加盟することで公正な価格の実現が期待できる
② 新規の事業者も参加しやすい環境が整備されている
③ 電力会社が安価な電力を目的に、自由に行動できる
④ 各国間で電力を補いあえる
など、この他にも細かいメリットを挙げればきりがありません。
北欧4ヶ国の電源構成と電気代
北欧4ヶ国の電源構成は次のようになっています。
※単位は発電量:TWh (2010年版)
● ノルウェーは水力中心(水力135、原子力0、火力1.5、再生可能エネルギー0.9)
● スウェーデンは水力と原子力中心(68.4、61.3、14.3、2)
● フィンランドは火力中心(16.9、22、34.9、0.2)
● デンマークは火力と再生可能エネルギー中心(0、0、26.7、9.5)
という具合に各国で電源構成が違うので、水力や再生可能エネルギーの過不足を補いあうために、ロシアやドイツも交えて全体の1~3割程度まで電力の輸出入を行っています。
この4ヶ国のなかで一番電気代が安いのはノルウェーで、一番高いデンマークはノルウェーの2倍以上にもなっています。
デンマークの電気代が高いのは再生可能エネルギーに関する税金が加わるためです。デンマークは風力を中心に再生可能エネルギーの拡大をめざしていて、2025年の時点で50%に達することを目標に掲げています。
ノルウェーの電気代は水力発電の比率が非常に高いこともあって、先進国のなかでも際立って安くなっています。
デンマークの再生可能エネルギーへの取り組み方
デンマークが利用した再生可能エネルギーは、北海から吹き付ける強い風による風力発電です。
1990年代以降、デンマークで風力発電が普及したのは、政府が公共政策として関わり、いろいろな形で援助をしてきたからです。また、それに対する国民的合意も得られて飛躍的に伸びることができました。
再生可能エネルギーで心配される停電時間は、世界最高水準で停電が少ない日本と比べてもそれほど大差のないレベルにまでなっています。
価格については、もともと風力発電のコストは高いのですが、環境税の導入などの政策、そしてノルドプールという電力市場で価格の透明化や不安定な価格変動に対する緩和措置が実施されているので、価格もある程度、安定を保つことができています。
<デンマークの電力事情から学べること>
電力会社だけに任せるのではなく、政府がどのくらい再生可能エネルギーに取り組むかによってかなり状況が違ってくる、ということがハッキリわかります。
フィンランドの再生可能エネルギーへの取り組み方
フィンランドの電源構成では原子力の割合が多いです。しかし、木質燃料などのバイオマスの再生可能エネルギーへの取り組みも、政府のエネルギー政策の中心的課題になっているようです。
そのため、2013年以降からは再生エネルギーだけで生産された電力プランも各電力会社がだしてきて、原発に反対する人はそういうプランを選べるようになっています。
発電と送電の分離は1995年の電力市場法が改正されてから実施されていて、早や20年を経過しています。また、スマートメーターは2009年からの政令で全国の電力会社が導入を進めて2013年には約8割の家庭で使われているそうです。
これによって、今までは紙に電力量が書いてあるものが送られてくるだけであったのが、特定のウェブサイトにログインすると、さまざまな情報がアップされていて電気代の節約に役立っているようです。
日本の電力事情と北欧4ヶ国の電力事情との違い
読む前に知っておきたいキーワード: 政府の取り組み方
<各国の政府の取り組み方比較>
●ノルウェー : 水力発電以外の風力発電にも取り組んでいく
●スウエーデン : 2020年までに再生可能エネルギー50%を目標
●デンマーク : 風力中心に2025年時点で再生可能エネルギー50%を目標
●フィンランド : 原子力発電よりも再生可能エネルギーを中心にしていく
●日本 : FITの導入と賦課金の設定
集中型の日本と国際連系型の北欧4ヶ国
こうしてみてくると、日本と北欧4ヶ国の電力事情が違うことがよくわかります。
<日本と北欧4ヶ国との違い>
① 発電会社、送電会社、配電会社、売電会社が分離していること
日本では、既存の大手電力会社がすべてを所有している形です。
② 北欧4ヶ国で一体となって電力自由化を推進して、再生可能エネルギーの拡充に努めていること
日本は石油や液化天然ガスの輸入に頼りつつ、自国の電力を自国の電力会社だけで補う自給自足の国です。再生可能エネルギーについては、電力自由化になっても購入できる仕組みはまだできていません。
③ ノルドプールという取引市場があること
日本では大手電力会社が一手に引き受ける集中型の電力網です。
④ スマートメーターの導入
今の日本では現在の電力量計のかわりにスマートメーターを導入するようなことは、まだ実施されていません。検針員さんの雇用問題など、着手するにはまだ問題があるようです。
などが考えられます。
日本の再生可能エネルギーへの取り組み方
この中でも気になるのが再生可能エネルギーについてです。日本でも2012年7月にスタートしたFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)により、太陽光発電が急速に伸びています。
これは、再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱)で発電した電気を電力会社が買い取ってくれるという制度です。国が約束している制度です。
そして、買い取り代金の捻出のために、2016年5月から電気料金に再エネ賦課金が加わって月々の電気料金が高くなる予定です。
北欧4ヶ国のうち一番、再生可能エネルギーの比率が大きいデンマークでも環境税の導入などで電気代が高くなっていることは、日本からも注目されています。
ようやく一歩を踏み出したばかりの日本の電力自由化事情
北欧は気候が寒冷なこともあって、エネルギー問題には日本以上に政府が真剣
に取り組まざるをえない状況があります。
しかし、日本には「2011年の福島原発事故」という大変なことが現実に起きたわけですから、政府が北欧と同じ程度に真剣にエネルギー問題に取り組まなければならない動機があるはずです。
また、北欧の取り組みは「ほぼ成功している」ともいわれていますが、状況が変われば変化することもあれば混乱が起きる可能性もあります。
つまり、理想的ではないのです。
各国がいまだに再生可能エネルギーの問題に真剣に取り組んでいます。
少なくとも自由で開放的で健全な電力市場をつくるためには、「電力集中型の日本の基盤をなしている発電送電一本化」ではなく、北欧のように「送電、発電、配電を分離すること」が条件になると思われます。
蓄電池や太陽光パネルなど、再生可能エネルギーへの取り組み方ひとつが、電力市場に風穴を開けることになる可能性は多いに考えられます。
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日本でも再生可能エネルギーが注目されつつあります。電力自由化により新規参入した電力自由化には、再生可能エネルギーを活用した電力会社もあります。
こうした地球にもお財布にも優しい電力会社への切り替えを検討してみてはいかがでしょうか。電力会社切り替えで大幅に電気代を節約できるかもしれません。
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