イギリスのガス自由化制度は2002年に完全自由化へ

1982年に始まったイギリスのガス自由化
イギリスにおけるガス自由化というのは、1982年頃から徐々に始まってきています。
ガス自由化が始まった当初、年間でのガス消費量が約470万㎥以上となる大口の需要家を対象としていました。
つまり法人として営業している会社や工場などです。
それから1986年になると、年間のガス消費量が約5万9千㎥を超える需要家も対象となり、その後1992年を迎えて約6千㎥を超える小規模な需要家もガス会社を選べるようになりました。
このようにして段階的にガス自由化の対象を広げてきているのです。
2002年にはガスの価格に関する規制を排除し、ガスの完全自由化がイギリスで開始されました。
⇒2017年にはじまるガス自由化とは?
始まりはブリティッシュガスの事業形態分割
一昔前のイギリスでは、公的なガス事業者である12個の地域委員会が存在しており、これら委員会が主体となって、消費者へガスの供給を行っていました。
その後大きな組織再編が行われたことで、12個あった地域委員会が一本化され、「ブリティッシュガス公社」となりました。
数年の間、公社として運営されてきた「ブリティッシュガス公社」ですが、1986年になると民営化され「ブリティッシュガス」に名称が変更されました。
しかし長期に渡って安定したガスが供給されていたことから、わざわざ他のガス会社に切り替えをする必要が無いと考えた消費者は、ブリティッシュガスを引き続き利用していたそうです。
結局、新規参入のガス会社との競争は起こらず、ブリティッシュガスの独占状態が続いていました。
そして1995年には法改正によってブリティッシュガスの事業形態が大きく変わることとなり、小売、卸売、輸送と3つに分割されたのです。
輸送に関してはブリティッシュガスの独占が続きましたが、小売と卸売は続々と新規参入のガス会社が現れ、ガス供給の競争が始まりました。
現在では過半数以上が新規参入会社
競争が始まったと言いましても、それでもブリティッシュガスが圧倒的だったため、国による行政指導と法改正が積極的に行われたことから、現在では過半数以上になる54%が新規参入会社のシェアとなっています。
事業形態が分割されガス自由化が本格的になったとしても、やはり天然ガスの供給事業者とブリティッシュガスには昔からの繋がりがあったため、独占状態が続いていたようです。
国が動いたことにより新規参入会社のシェアが伸びましたが、その結果として現在のイギリスはガス自由化に成功したと言えるのでしょうか?
イギリスのガス自由化は成功!?

イギリスでガス自由化が開始されたことで新規参入会社が続々と増えていき、ガスの供給価格は、法人用家庭用ともに各社の価格競争によって値下げに成功しました。
ただ2000年を迎えると、世界的な天然ガス高騰が始まり、現在では徐々にガス供給価格が高くなってきてしまっています。
しかしイギリスのガス自由化とほぼ同時期に世界規模の燃料高騰となったことから、ガスが自由化されたことにより値上げになったとは判断することが出来ません。
確かにイギリスではガスの値上がりが進んでいますが、他のEU諸国のガス供給価格と比較してみますと、低水準をキープしているため、イギリスのガス自由化は成功したと言えるのかもしれません。
ただしイギリスで行われた国民投票によりEU離脱が決定したことで、徐々に値上がりしてきているのも事実です。
今後、EU離脱が本格的になった時、ガス供給価格がどのように変化していくのか注目したいところです。
⇒ガス自由化のメリットとデメリットには何がある?
都市部と地方の格差
確かにイギリスのガス自由化は成功していますが、それとは裏腹に、都市部と地方とのガス料金格差が生じているようです。
やはりガス会社としては、一世帯でも多くが住んでいるエリアで事業を展開したいものですから、どうしても都市部に集まってきます。
するとせっかく自由化されても、ガス会社の少ない地方ではその恩恵を受けることが出来なくなります。
自由化とは名ばかりとなり、結局、従来までのガス会社との契約を維持しなければならなくなります。
この問題は今後の日本でも同じ現象が起きると予想されていることから、一般家庭向けのガス自由化が本格的に始まる前に、是非国で対策を検討してもらいたいものです。
価格競争の規制
もう1つの問題として、価格競争が過激になり過ぎたことが挙げられます。
各社で次々とディスカウントプランが提案され、一時的にトータルで4,000を超えるプランが世に出始めました。
そこで過激になり過ぎた価格競争を規制するため、イギリス当局が動き、現在ではトータルで100程度となりました。
この傾向は日本でも起こると予測されており、規制されていない現状でしたら驚きのプランが無制限で出てくるでしょう。
しかし何でも規制する日本ですから、携帯電話の実質0円プランの禁止と同じように、一定金額以下の水準でガスを提供するということが不可能になってくると予想します。
⇒ガス自由化は電力自由化のように価格競争は起きるのか?
新規参入会社の躍進

先述した通り、ガス自由化直後のブリティッシュガスは、一定の顧客数を維持していましたが、先行会社に負けまいと新規参入会社の躍進が目立っています。
現在のブリティッシュガスは、ガスと電気のセット販売や数年間固定された料金などを提案し、1世帯でも多くの顧客を取り戻そうと企業努力を行っています。
しかしそれだけでは一度離れた顧客を取り戻すのは正直難しいのが現実です。
サービスが多様化する新規参入会社
シンプルでわかりやすいサービスのブリティッシュガスとは反対に、新規参入会社ではあらゆるプランを提案しています。
例えばガスの上限金額に制限を設けたもの、インターネット申込みをすることで割引されるプラン、ガス+電気+水道のトリプルセット、高齢者世帯の割引プランなどなど、ブリティッシュガスには無い個性的なプランが数多くあります。
消費者が選ぶのは新規参入会社
最終的に消費者が選ぶのは新規参入会社が多く、先述しましたが、全体の約54%が新規参入会社を選んでいます。
天然ガスの高騰で、ガス会社としては単価を下げることが出来ず、逆に高い水準で供給しているのにも関わらず、これだけ新規参入会社が選ばれているということは、イギリスにおけるガス自由化は見事に成功していると言えます。
電力会社によるガス事業
日本でも同じこととなる傾向にありますが、イギリスでガス自由化後、地域の電力会社がガス事業に参入しています。
元々電気を販売していた強みもあり、電気とガスを同時に申込みすることで、セット割引が可能になります。
これはインフラを取り扱っていない会社がガス事業へ新規参入するケースよりも圧倒的に有利になっているのだと言えます。
また日本では、通信会社がガス事業に参入し、インターネット回線との同時申込みで割引といったサービスも考えられます。
イギリスのガス会社比較サイトの存在

日本の電気自由化において一気にインターネットの世界に増えてきたのが「電力会社比較サイト」です。
家族の人数や家のタイプ、広さ、現在契約中の電力会社、プランなどを入力することで、最も安く提供している電力会社を簡単に調べることが出来ます。
このような比較サイトはガスの自由化後に、「ガス会社比較サイト」として多数出てくること間違いありません。
事実イギリスでもガス比較サイトが多く、ガス会社切り替えの参考にと多くの方が利用しているようです。
やはり国は違えど、少しでも安くガスを利用したいと考えるのは世界共通で同じことなのです。
ここまで、イギリスのガス自由化の経緯や現状などを書いてきましたが、今後始まる日本のガス自由化の参考になったかと思います。
「ガス自由化は絶対に失敗する」「ガス自由化により日本のインフラ制度が崩壊する」などと言う専門家もいるようですが、イギリスの事例を見る限り決してマイナス方向に進むことは無いでしょう。
電気自由化もスムーズに始まり、実際に電気料金の削減に成功したケースも多いことから、ガス自由化も私達消費者がお得に便利になるような制度になること間違いありません。