アメリカのガス自由化は2009年時点で8州、これから完全自由化へ

アメリカがガス自由化を決定した理由
アメリカがどうしてガス自由化を実施したのかと言いますと、その大きな理由がガス小売価格の低下にあります。
日本とは異なりアメリカはガスの資源国であり、豊富な量のガスを自国内で採掘することが出来ます。
しかし国土の広いアメリカですから、例えば地理的条件が良いアラスカの場合、1㎥あたり0.24ドルで安いのですが、フロリダでは0.77ドルと約3倍以上にもなります。
さらに本土とは離れているハワイでは、1.26ドルと約5倍もの開きがあります。
このような現状から、各州の規制当局により、価格差を極力減らすためガス自由化が議論されるようになりました。
⇒ガス自由化のメリットとデメリットには何がある?
州で異なるアメリカのガス自由化

アメリカという国は日本とは異なり連邦制となるため、国家レベルの改革や規制以外は、各州政府が管轄しています。
つまり簡単に言ってしまえば、消費者レベルの規制に関しては、連邦政府ではなく州政府により定められていることになります。
ガスの供給や制度に関しては、広域的に連邦政府が行っているのですが、自由化への判断は州政府の判断となります。
このことから、アメリカでガス自由化が始まっていると言いましても、実際には全土で自由化されているワケではなく、また自由度具合に関しても各州により異なります。
現在ガス自由化を実施している州
アメリカでは1988年頃からガス自由化が議論されるようになり、まず最初は日本と同じように大口の需要家のみに限られていました。
そこから徐々に広まり、2009年時点で大口需要家と一般家庭の全面的にガス自由化が実施されているのは、8州となります。
8州以外でもガス自由化は進んでいるのですが、まだまだ部分的なものとなっており、一般家庭向けに自由化が進んでいるのは少しの州しかありません。
もちろんこれからアメリカ全土でガス自由化が広まると予想されており、最終的には完全自由化が実現するだろうと言われています。
ガス会社を切り替えた世帯割合
全面的なガス自由化が始まっている8州ですが、実際にガス会社を切り替えた世帯はそこまで多くありません。
ガス会社の切り替えにより、ガス代が安くなったり、付帯オプションで様々なサービスが見込めるハズのガス自由化は、何かしらの理由で活性化していないようです。
具体的に8州のうち実際にガス会社を切り替えたのは4州で1%以上、残りの4州で1%未満となっています。
このことからガス自由化が実施されているのにも関わらず、切り替えが進んでいないという問題が生じているのです。
その理由は、カリフォルニア州とニューヨーク州におけるガス自由化の規模から明らかになります。
カリフォルニア州とニューヨーク州のガス自由化

カリフォルニア州とニューヨーク州は、どちらもガス自由化が実施されているのですが、両州で切り替え世帯の数が大きく異なっています。
カリフォルニア州では1,000万世帯が、ニューヨーク州では500万世帯がガスの供給を受けているのにも関わらず、後者のニューヨーク州の方が切り替え需要が圧倒的に高いようです。
普通に考えますと、ガスの供給の多いカリフォルニア州の方がこぞって切り替えが行われるイメージがありますが、現実は異なります。
簡単に言ってしまえば、カリフォルニア州はガス自由化の失敗事例であり、ニューヨーク州が成功事例となるかと思います。
別の言い方をすれば「ガス自由化が上手に機能していない州と機能している州」となります。
新規参入会社が少ないカリフォルニア州
ガス自由化のメリットを活かすためには、従来のガス会社だけに限らず、数多くの新規参入会社の存在が欠かせません。
ニューヨーク州には40社を超える新規参入会社がありますが、カリフォルニア州にはたったの1社しか存在しません。
つまりガスの需要家が複数のガス会社の料金やサービスなどを比較したいと思っても、カリフォルニア州では1社しか無いため、それが出来ないのです。
その点、ニューヨーク州には「複数社から選べるメリット」があるため、大口需要家だけではなく一般家庭にもガス自由化が広まったワケです。
カリフォルニア州がうまく機能していない理由

次にどうしてカリフォルニア州ではガス自由化がうまく機能していないのかをご説明していきます。
カリフォルニア州と言えば、アメリカ西海岸の殆どを占めており、ニューヨークに次いで人口の多いロサンゼルスのある州です。
アメリカ有数の世界都市であるロサンゼルスがあるのにも関わらず、ガス自由化が機能していないのは非常に疑問に感じます。
これには、日本のガス自由化に向けて参考になる大きな反省点があります。
一定以上の需要家グループの形成
アメリカのガス自由化は、一定以上の需要家グループを形成しなければ、新規参入会社としてガス供給事業を立ち上げることが出来なくなっています。
例えばニューヨーク州では1年間で約8.2万㎥以上を消費する需要家グループを形成しなければいけません。
日本では一般家庭が1年間で消費するガス量は400㎥と言われていますので、アメリカの一般家庭が同等のガス消費量だとすると、最低でも約205世帯のグループが必要になります。
この程度でしたら現実的な数字であるため、ニューヨーク州では数多くの新規参入会社が出てきています。
しかしカリフォルニア州では、約28.1万㎥以上と決められています。
同じように1世帯400㎥のガス消費量として計算してみますと、700世帯を超える需要家グループを形成しなければならないことになります。
このような需要家グループに入らなければ、ガス会社を選択出来ないのがアメリカのガス自由化なのです。
これがカリフォルニア州でガス自由化がうまく機能していない理由となります。
日本のガス自由化
カリフォルニア州の事例から、2017年に始まる日本のガス自由化は、需要家グループは必要無く、1世帯単位でガス会社を選ぶことが出来るようになります。
これは日本がガス自由化に向けて定める規制作成における、非常に役立ったアメリカの事例だったことでしょう。
そもそもアメリカと同じ需要家グループ規制は、日本という国では全く機能しないと素人見解でもある程度予想が付くことです。
⇒ガス自由化と電力自由化、それぞれのメリット・デメリットまとめ
ガス自由化を推進しない方向も検討しているアメリカ

日本ではこれからというガス自由化ですが、アメリカでは今後ガス自由化を推進しないという方向も検討しているようです。
その大きな理由として、下記の3つが挙げられます。
需要家にとってのインセンティブが少ない
一般家庭が新規参入会社に供給元を切り替えたところで、心理面と料金面で殆どインセンティブがありません。
多くの一般家庭では、長い年月継続してガスを供給してもらっていたガス会社に慣れ親しんでおり、新規参入会社に切り替えをしたことにより、不安が生じています。
また切り替えたところで、小売価格に殆ど差が無いことから、料金面でもメリットがありません。
⇒ガス自由化での安全性は?安定供給は大丈夫?
新規参入会社の負担
大口の需要家とは異なり、一般家庭向けにガスを供給する新規参入会社は、とにかく数多くの需要家を獲得する必要があります。
そのためにはどうしても費用が必要となり、その費用負担が多額になります。
このことから経済的に成立しにくいのです。
天然ガスの価格が高騰
最近では世界的に天然ガスの価格高騰が進んでおり、アメリカも例外ではありません。
このような上昇傾向にある段階でガスの自由化を推奨したところで、経済的な効果が出にくいのです。
以上のように、ガス料金の低下を最大の目的としてガス自由化が実施されているアメリカですが、今後はかなり縮小気味になることが予想されています。
日本ではアメリカという前例があるため、政府主導の元、消費者にとってもガス会社にとっても有利になるガス自由化が展開されていくことでしょう。
「アメリカでは一般家庭にメリットが無いから日本で始まっても切り替えする必要は無さそうだな」と思わず、様々なガス会社のサービスや料金を比較してみてください。
電気自由化に続き、ガス自由化もきっと私達消費者にも大きなメリットがあることでしょう。