新電力事業者「日本ロジテック」の撤退からみる電力市場活性化のポイント

新電力企業大手であった日本ロジテック協同組合が、2016年3月末で新電力事業より撤退する事となりました。
新しいスタイルで電力を販売する事で大きく注目されていた新電力企業でしたが、何故撤退してしまったのでしょうか?
その理由には、電力自由化と電力会社の深い関係性にあるようです。
新電力とは?
現在の電力会社は2種類あります。東京電力や関西電力など、電力自由化以前の各地域で電気を独占販売してきた『一般電気事業者』が一つ。これらは地域電力や大手電力会社とも呼ばれますね。そして電力自由化に伴い新規参入し、特別高圧・高圧・低圧に電気を販売できるようになった『新電力』という電力会社です。
(かつて新電力はPPSと呼ばれてきましたが、2012年3月に経済産業省より「新電力」と名称を変更されています。)
新電力へ乗り換えるメリット・デメリット
新電力は、一般電気事業者よりも電気の価格を安く販売し顧客を獲得するのが主流です。そういった新電力の安価な電気料金プランに乗り換えれば従来と同じ電気使用量でも電気料金が安くなる、というのが需要者のメリットです。
デメリットの最たるものは「誤ったプランを選択した時に電気代が高くなってしまう」「解約時に解約金が発生するプランがある」などですが、電力会社を乗り換える際に契約内容(特に契約期間)を確認し、電気料金プランのシミュレーションを行えばほとんどを防ぐことができます。
新電力に乗り換えるリスクは?
新電力に乗り換えたときのリスクと聞いてイメージされることが多い「停電」ですが、これを心配する必要は無いと言っていいでしょう。電力の供給に必要な設備(例えば電線など)は既設のものを共同で利用し、管理・保安は各地域の一般電気事業者が行います。よって、新電力に変えることで停電が起こるリスクが上がるものではありません。
本当のリスクは新電力に変えるメリットと表裏一体、電気を安価で供給することから生まれます。
新電力が電気の小売価格を引き下げる手法はいくつかありますが、主な要素に「大規模発電所を保有しないこと」が挙げられます。これは発電設備の維持・管理にかかる各種コストを削減して電気の小売価格に還元できる反面、安定した電力調達ができないことも意味しており、経営を不安定にさせるケースがあるのです。
新電力の経営が危うくなることは契約者にとってのリスクです。新電力が倒産すれば他の電力会社への乗り換えを迅速に行う必要に迫られるなど、施設によっては影響が小さくないアクシデントに見舞われるリスクが高まるでしょう。
ただでさえ薄利と言われる電力小売り事業で電気を格安販売し、多くの顧客を獲得したものの電力の調達量が不足してしまい、倒産という結末を迎えてしまった新電力が「日本ロジテック協同組合」です。
新電力の撤退は安定供給が不可能になったから?!

日本ロジテック協同組合の新電力事業は、2010年に始まっています。
法人向けの新電力会社として、50kW以上の電力を自社の組合員となった一般企業、および官公庁や地方自治体に供給していました。 日本ロジテック協同組合は、「エコサブ」と呼ばれる組合員による共同購買方式で発電事業者から電力を安く一括購入し、大手電力会社よりも安い料金で電力を販売していました。
電力の仕入れ先は、発電施設を持たずに自家発電を行っている企業や、水力発電運営を行っている地方自治体などでした。
日本ロジテック協同組合は、2011年の東日本大震災による原子力発電所の停止、2012年7月に始まったFIT制度などを追い風に急成長。資源エネルギー庁が集計をした2015年9月の月間電力販売量をみると、新電力内で5%ものシェアを獲得しており業界4位とかなり上位に位置していました。2015年3期の売上高は約555億円でした。
しかし一方で、電力調達の為に支払う費用も大きく、需要家に対しては大手電力会社より1~8%も安く電力供給していたため、利益は非常に薄いビジネスでした。
組合員である需要家が急速に増えていった結果、次第に電力の供給が追い付かなくなり始めました。また、需要家は「組合員=株主」であったため、供給契約で無理のある電気料金であっても、値上げをすることができませんでした。そして、需要家から支払いのあった納付金(再生可能エネルギー賦課金)を、費用負担調整機関に支払わないという状態が続くようになりました。結果、2015年5月13日には経済産業省に未納電気事業者として公表されてしまいました。
最終的に2016年2月24日、2016年4月から始まる電力小売全面自由化に伴う小売電気事業者への登録申請を取り下げました。
その結果、日本ロジテック協同組合と契約していた全国約1,200件以上の需要家は、2016年4月以降の電力契約先を、大手電力会社か他の新電力へ変更を迫られるという事態になってしまいました。
このような新電力の撤退による問題は、日本ロジテック協同組合だけに限らず新電力すべてに生じる可能性のある問題だと考えられます。小規模で発電設備がない会社は、コスト高の電力を調達し、大手電力会社より安く供給しなければならないという厳しい状況で、今後も撤退や倒産する新電力会社が出て来る可能性は拭いきれないといえるでしょう。
経済産業省の登録審査は2重のチェックがある
日本ロジテック協同組合のように、採算が取れなくなり撤退をすると、新電力全体が需要家から信頼を失ってしまいます。
需要家からしてみれば、「安易に新電力事業を行っているのでは?」と不信感が出てくるのも無理はありません。
「だったら、新電力に切り替えない方が良い」と思う方もでてくるでしょう。
しかし、2016年4月からの電力自由化による電力小売事業者への参入は、きちんとした審査の仕組みがあります。。
電力小売事業を行う為には、経済産業省の登録審査を受けなくてはいけません。
電力小売事業の登録審査は、次に挙げる2つの組織で審査し、許可を判断しています。
【資源エネルギー庁】
資源エネルギー庁は、経済産業の外局で、石油・電力・ガスなどのエネルギーの安定供給政策を決定する機関です。 ここでは、安定した電力供給ができるかどうかを調査します。
【電力・ガス取引監視等委員会】
経済産業省直属の組織です。市場の監視機能等を強化と、市場における健全な競争を促すために設立された期間です。苦情などの不満が需要家に起きた場合、スムーズに対応できる経営体制が取られているか調査します。
新電力事業者が撤退しても電気は止まらない!

契約している新電力事業者が破たんしてしまうと、気になるのは「電力供給が止まってしまうのではないか」という事ではないでしょうか。
上記イラストでもわかるようにその点は心配ありません。
国の規約として、2020年までは大手電力会社が全世帯に電気を供給することになっているからです。 ただ、永続的な規約ではないので、新電力選びの重要性は変わりありません。
新電力会社が倒産したら早期に切り替えを
経済産業省の規約により、新電力が倒産すると、電気が止まる15日前までに契約会社から需給できない旨の通知が送られてきます。通知が届いたら、別の新電力か大手電力会社のどちらかを選択します。 契約したい会社に連絡することで切り替えの手続きは完了します。 契約していた電力会社が不払いなどで行方不明になった場合は、大手電力会社から直接通知が来ます。 その場合、新しく切り替えをするまで数日程度しか時間がありませんので、一旦、大手電力会社に契約を戻すのが無難かもしれません。
以前、契約していた大手電力会社に切り替えると、電気料金も元の料金に戻りますので、安くお得になるからという理由で大手電力会社から切替えた人は注意が必要です。
新電力の自由競争を安定させるには

日本ロジテック協同組合の事業撤退は、安定した電力事業を行っていく事の厳しさが露呈した形となってしまいました。
では、新電力の事業をより活性化、安定化させるにはどうしたらよいでしょうか?
新電力事業の活性化には、まず、電力卸売市場のさらなる活性化が必要です。電力卸売市場では、活性化に向けて経済産業省による取り組みが行われています。
経済産業省は、全国で自由に卸電力の取引が行えるよう「日本卸電力取引所」という機関を2004年に創設し、日本で唯一の卸電力取引市場を開いています。経済産業省は、卸電力取引市場が進める市場活性化に向けた自主的な取り組みを常に監視し、活性化を促進するよう努めています。
また、電力卸売市場では、電気事業を行う地方公共団体が電力会社との間で長期にわたる契約を結んでおり、長い間特定の電力会社だけに売電しているケースがあります。
これは電力卸売市場の活性化を妨げてしまうため、経済産業省は2015年に「卸電力取引の活性化に向けた地方公共団体の売電契約の解消協議に関するガイドライン」を策定しています。これにより、契約解消時に発生する損害賠償などによるトラブルをスムーズに解消し、契約解消に向けた協議が進めやすくなるようにしています。
2016
新電力でも安心な仕組みがある! 電力自由化に不安がらないで
「電力自由化」や「新電力」と聞くと、「電力会社の安定性や安定供給に不安がある…」という方も多いのではないかと思います。
しかし、上記で触れたように、新電力の電力供給は既設の設備を使用します。そのため、停電などのリスクがこれまで契約していた大手電力会社と比べて上がることはありません。また、万が一新電力会社が倒産してしまった場合でも、別の電力会社に切り替え手続きを行えば電気が止まることはありません。
ですので、新電力への切り替えを躊躇していた方も安心してください。
一般家庭用では長年、地域独占で競争がない電力供給システムが当たり前だったため、電力会社選択の余地がありませんでした。諸外国と比べると、日本の電気料金が高い事もわかっています。
電力自由化により、折角安い電気料金を選択出来る様になったのです。
消費者として自分のニーズにあった業者をきちんと選定し、納得できる電気料金を支払うようにしましょう。
信頼できる新電力会社に切り替えて電気代を安くしましょう!
電力自由化がスタートしてから新電力の登録審査も厳しくなっています。
今も撤退していない新電力は約100社ありますが、かなりの数ですね。
タイナビスイッチでは、ご家庭の電気プランにピッタリの新電力会社を診断できます。
診断も切り替えも無料で、いくら安くなるかも比較できますよ。
是非試してみてくださいね!