【電力自由化】カリフォルニア州の失敗とテキサス州の成功

アメリカでは、1990年代に電力自由化が始まりました。アメリカは連邦制であるため、日本のように全国同時に電力自由化が導入されるわけではありません。それゆえ、電力自由化を上手に運営できた州と失敗した州ができました。今回は、カリフォルニア州の失敗例とテキサス州の成功例を見てみましょう。
⇒アメリカの電力自由化から日本が学ぶ事
カリフォルニア州の失敗
2000年夏ごろ、アメリカのカリフォルニア州で大規模な停電が起きました。原因は、電力自由化後の不安定な電力をうまくコントロールする事が出来なかったからです。自由化の進め方を間違えると、痛い目を見る典型例と言えます。このカリフォルニア州では自由化後、どのような運営をしたのか追ってみましょう。
大手電力会社が発電設備を売却
電力自由化によって既存の大手電力会社は、発電設備を売却しました。大手電力会社だったのにも関わらず、発電能力を放棄したのです。
大手電力会社は、他社から電力を購入し消費者に配電するという役割に徹しました。これが後に、大規模停電へとつながる大きな布石になってしまったのです。
日本においては、万が一新電力からの供給が全体的に不足してしまった場合を考えて、既存の大手電力会社がセーフティーネットとしてその不足分を補うようなシステムになっています。このように今まで発電を担ってきた既存の電力会社が、発電能力を手放すのはとても冒険的なことだったのです。
発電所の建設ラッシュ
発電の自由化によって、発電所をたくさん作ることになりました。大手電力会社が発電しなくなったので仕方が無い事です。大手発電会社が電力のシェアを放棄する事で、新規参入を促す目論見があったのかもしれません。
しかし、電気業界に流れ込んだ新電力が、余剰に発電所を作る方へ流れてしまったのです。つまり、企業間の価格競争が起こらず、電気代を下げる方向へ作用しませんでした。
燃料価格の上昇
そこへ追い打ちをかけるように、天然ガスの上昇、電力需要の拡大、猛暑などが重なり電気代は上昇しました。発電能力を放棄した大手電力会社は、発電事業者から高騰した電力を購入するはめになってしまいました。
夏の猛暑が止めに
様々な規制によって大手電力会社は、消費者に対して電気代の値上げをする事さえもできませんでした。さらに悲惨なのは、発電事業者は燃料費が高騰しているため発電量を抑えるばかりか、大手電力会社の発電能力を疑って電力を売り渋るようになりました。
さらに夏が猛暑が加わり、電力需要が拡大した事がとどめとなって、電力供給量が不足し停電するという事態に陥ったのです。
この一連の流れの中で、電気代は上昇していません。様々な規制により、電力会社が電気代を上げる事が許されませんでした。なぜなら、電力自由化は「安価な電気代」により経済を活性化させる事ことを目的としていたからです。
しかし、停電してしまっては経済が停滞するどころか、停止してしまいます。電気代を無理やりにでも上げなかった結果、停電という最悪の事態を招いてしまったのです。
カリフォルニア州の最大の失敗原因は停電?
大手電力会社が発電設備を手放した事
電気は、日本やアメリカなどの先進国において経済をまわす歯車となっています。需要と供給による電気代変動の波が経済を襲った時、最後に電気業界を守るセーフティーネットの存在が必要になります。
その役割を担うのが既存の大手電力会社ですが、カリフォルニア州の場合は新電力の競争を促すために手放した事がこの大停電の1つ目の原因となります。
電気代の値上げをしなかった事
電気代にもっとも大きな打撃を与えるのは、燃料費の高騰です。今回のアメリカの場合、天然ガスの高騰がその原因でした。電気を作ること自体が難しくなった時、消費者がきちんと買い支えてあげないと、電力市場全体が停滞してしまいます。
電気代を上げなかったことが、電力不足を導いてしまいました。停電よりは、一時的な電気代の高騰を耐える事の方が痛手は少ないかもしれません。
テキサス州の成功事例
テキサス州では、電力自由化が2002年に実施されました。大失態を犯してしまったカリフォルニア州に比べると、バランス感覚が優れていたようです。
テキサス州は最もアメリカにおいて電力に消費量が多い州であり、イギリスやスペインに匹敵します。テキサス州とカリフォルニア州で何が違ったのでしょう。
⇒電力自由化の先駆け「イギリス」ではどんな状況だった?
テキサス州の成功事例①「発送電分離」
既存の大手電力会社は発電、送配電、小売りを分割しました。これは発送電分離と呼ばれ、大手電力会社の電力シェアを分割する事で新電力に新規参入を促し、競争を促すという狙いがあります。これによって競争環境が整いました。
テキサス州の成功事例②「価格水準を調節する」
電力自由化によって電気代が需要と供給の関係の最中に放り込まれると、電気代が不安定になってしまいます。価格水準を調整するのは不安定性に効果的な対策です。
イギリスにおいては、発送電分離の際に強制プール制という制度が悪影響を電力市場に与えましたが、テキサス州においては比較的スムーズに発送電分離が行えたようです。競争を煽りつつも、電気代の不安定性をカバーするというバランスのとれた運用の仕方でした。
またテキサス州のすごいところは、一般家庭の60%が新電力に乗り換えたところです。高い割合で、既存の電力会社との契約を絶っているのです。テキサス州の電力自由化のやり方には特徴があり、テキサス州の面積の75%をカバーするテキサス電力信頼度協会の範囲の電力を自由化しました。
この中に大手の電力会社が7社あり、そのうちの5社が私営の電力会社でありこれらの会社を自由化しました。つまり州営の公的な発電所に対しては手を付けくわえなかったという事になります。
この電力信頼度協会における私営電力会社5社のうち、シェア20%を超える企業に対しては20%を超える分の発電資産を売却する事を義務付けました。かなり荒療治な感じがしますが、売却を義務で受けられた発電事業者はかなりの力を持っているため、大きな痛手になることは無いのでしょう。
テキサス州の成功事例③「大手電力会社の価格競争を禁じる」
他にもかなり強引ともいえる方策をとっています。電力自由化した後の新規参入を促すために、既存の電力会社に対し、担当している供給地域の電力シェアが40%を失うまで基準価格以外で電力の小売りをすることを禁じました。
どういうことかというと、すでに力を持っている既存の会社に対しては価格競争をすることを許さなかったのです。そうする事で、消費者は価格競争によって電気代が下げられた新電力の方へ流れていきます。
するとさらなる新規参入を促し、新電力同士の価格競争は激化しさらに電気代は下がります。とても理にかなったやり方ではありますが、既存の電力会社の反発をどう抑えたのかが気になるところです。