電力自由化の先駆け「イギリス」ではどんな状況だった?

イギリスの電力自由化をはどうだったのか?
電力自由化によって海外で何が起きたのかを知ることは、日本にとっても非常に参考になります。世界的に見ても日本の電気料金は高い方であることから、期待されるのはやはり電気料金が安くなることです。今回は、電力自由化(発送電分離)の仕組みと先輩であるイギリスの成功例や失敗例を見ていきましょう。
イギリスが発送電分離を最初に実行
イギリスが経験した事は電力自由化導入当初、あまりポジティブなものではなかったようです。発送電分離の副作用の方が強く出て、メリットである電気料金の値下げさえもままならないという悲劇的な状況が起きてしまいました。
⇒イギリスは電力自由化により電気料金が高騰!!
イギリス電力自由化「強制プール制」
イギリスは電力自由化する前、中央電力公社が一括して発電も送電も担っていました。この状況は電力自由化前の日本とは、見た目は違うものの構造は良くできています。日本の電力会社は民間企業ですが、総括原価主義によって電気料金は守られています。
イギリスでは、まずこの国営企業を民営化しました。これが、自由化の第一歩であるとも言えます。電力自由化が始まった当初は、様々な会社が発電した電力を強制的にプール市場と呼ばれる卸売市場に集めて販売しなければならないという、強制プール制という制度による縛りがありました。
しかし、これは実質的に消費者の立場に立ったものではありませんでした。強制プール制がイギリスの電気料金を下げるどころか、上げてしまう元凶となったのです。後に強制プール制は廃止され、新電力取引制度(NETA)によってイギリスの電力の取引は取り締まられることになりました。
「強制」という文字がいかにも不親切な感じを醸し出していますが、果たして悪いところばかりだったのでしょうか?
プール市場が外部企業の呼び水になる
強制的にプール市場にいったん電力を集めて、そこで電力会社同士のなれ合いのもと電気料金が定められてしまえば、電気料金は上がってしまいます。電力自由化前はイギリスも日本と同様に、利益を出すことではなく国民が安定した暮らしを保証するために定めた電気料金だったからまだ良かったのです。
しかし、自由化後はそれぞれの電力会社が利益のために電気料金を決めてしまうため、電力自由化前よりもイギリスの電気料金は高額なものになってしまいました。結局、強制プール制の影響で市場を自由化できず、プール市場という利益欲にまみれた閉じた市場を作り出してしまったのです。
悪い事しかないように見える強制プール制ですが、実はこの制度があったからこそ皮肉にも救われた部分もありました。
電力自由化でイギリスはNETA(新電力取引制度)を導入
驚いたことに強制プール制のおかげでその後、電気料金は落ち着いて行きました。なぜ電気料金が高騰から一転して下落していったのでしょうか?答えは、イギリスのプール市場において電力が高額でやり取りされた事で外部の企業が電力業界に多数参入したからです。
高く売れる商品を売ろうとするのは、自然な流れです。しかも電力の需要は、無くなることがありません。安定した市場であるのと同時に高値でやり取りされていた電力市場は、イギリスの電力会社にとって好都合なものだったのです。
NETAにより卸売価格が40%減
しかし、強制プール制のもとでは電力会社どうしのなれ合いのもと電気料金が決められてしまうので、企業間競争にはなりません。そこで強制プール制が廃止され、新電力取引制度(NETA)が導入されたことで一気に電力市場が開かれたものになり、ここでようやく企業間の電気料金競争が起こるようになりました。それにより、NETAが導入された後には40%も卸売価格が下落したのです。
基本的には強制プール制は、デメリットを強く引き起こす傾向があります。強制プール制のあとにNETAを導入する事で、NETAの良いところがより引き立ったというのが本質かもしれません。
イギリスは電力自由化後NETAにより弊害が
燃料費によって左右される料金
NETAによって競争市場にすることは成功したのですが、競争市場は燃料費や設備の発電効率によってその影響を直接受けます。これが、競争市場に持ち込む時の怖いところでもあります。イギリスにおいては、天然ガスの高騰が挙げられます。燃料費が高騰した時の電気料金への影響は避けられません。
特に日本においては、その影響がより顕著になるでしょう。なぜなら、日本は自国で燃料を採れないので輸入に頼っています。輸入相手国の石油の取れ高が芳しくない場合、あまり売ってくれなくなり需要に対して供給が小さくなります。こうなった時に、電気料金は上がるのです。この点に関しては対策のしようが無いので、仕方が無いと言えます。
機材の老朽化
競争に集中するあまり設備のメンテナンスや、最新技術を搭載した高効率の発電機を導入したりすることにお金を使わなくなります。古い機種の発電機をメンテナンスも不十分のまま発電を続けると発電能力は落ちていき、結果として電力業界全体としての発電能力が低下してしまいます。これこそ電力自由化における発送電分離の最も大きな副作用と言われています。
⇒電力自由化の仕組みと裏事情
安定供給できない懸念
電力自由化によって電力市場が開かれるという事は、大きな変化を伴い、その構造改革による痛みは避けることができなのかもしれません。そのため発電会社は、発送電分離はしたくないという立場をとっています。
理由は電力の安定供給が、できなくなる懸念があるからです。基本的には、新規参入の企業のうちの一つが電気設備の故障によって電気の供給が止まってしまったとしても、他の電力会社がカバーできる仕組みをとっていますが、電力業界全体の発電力が低下してしまうとお互いにカバーしあえなくなるリスクがあります。
イギリスの電力自由化から学ぶ
競争を煽る電力自由化における発送電分離。ただ単に、電気料金の値下げを期待できるものではないという事がイギリスの例を見るとよくわかります。イギリスの場合、電力自由化の要素以外にも、強制プール制などの要因もあったので日本にすべて当てはまるというわけではありませんが、電力自由化後に何が起こるかの例として学ぶところは多そうです。
電力業界にただ競争だけを求めると、業界全体の弱体化を招いてしまいます。また、再生可能エネルギーを積極的に使おうとすることでかかってしまう環境コストという要因もあります。若干高くつくものの、未来の電力市場を支える可能性のある代替エネルギーとして、国民一人ひとりが負担する姿勢は大切なのかもしれません。
電力自由化は、安定した電力業界を大きな競争市場へ変えます。つまり、安定を捨て、より柔軟な電力業界への進化とも言えます。電力自由化によるネガティブな面ばかりクローズアップされたように見えますが、デメリットはメリットの裏返しであり、電気料金が下がる事が作用であるとすれば、電気設備の老朽化を招くのが副作用になります。
強力な薬ほど副作用が強いのと同様、大きな改革にも副作用が出ます。その副作用とどう付き合うのかが、日本の電力自由化の焦点となりそうです。