東芝が妨害電波抑制に成功!ワイヤレス充電で走るEVバスの実験
次世代の車の中核をなすと目されるEV(電気自動車)は、いま各社が激しい開発競争を進めています。そうした中で、東芝と早稲田大学が共同でバス用の「ワイヤレス高速充電システムに向けた妨害電波抑制技術」の開発に成功しました。
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EVはElectric Vehicleの略で電気自動車のことですが、最近のマスコミでは報道されない日がないほどよく取り上げられている話題です。今回ご紹介するのも、このEVに関する話題です。報道によりますと、このたび東芝は早稲田大学と共同でバス用の「ワイヤレス高速充電システムに向けた妨害電波抑制」の技術を開発しました。
この技術により、これまで実用化のための課題であった無線通信を妨害する不要な電磁波を抑制することが可能になりました。これまでのEVは車両に充電器を搭載して走るのが一般的でしたが、バスなどの場合は充電の頻度が高いため、1日に何度も充電の手間をかけるのは大変です。それを解消するために東芝は早稲田大学の協力を得て、これまで長い間ワイヤレス高速充電システム採用のEVバスの実証走行を続けてきました。
東芝は長い間ワイアレス充電のEVバス実証走行を続けてきた
今回の成功は、東芝が2016年6月1日から開始したワイヤレス充電の中型EVバスの走行テストを重ねてきた結果であり、これにより無線充電の利便性だけでなく、CO2の削減効果も検証されました。東芝はこれより前の2012年の2月にも、早稲田大学理学工学院と共同で、今回より一回り小さいEVバスの公道での実証テストを開始していますが、これが今回の成功につながったのです。
EVバスの元になった車体は日野自動車のディーゼルバス
今回の走行実証テストに使用されたEVバスの元の車体は、日野自動車製のディーゼルバスです。このパワートレイン(エンジンで作られた回転力を駆動輪へと伝える役割を担っている装置類)を東芝が電動化したのです。これに東芝が開発してリチウムイオン蓄電池とモーター駆動システムを使うものです。
EVバスの仕様は?
このバスの仕様は
全長 | 8.9メートル |
---|---|
幅 | 2.3メートル |
高さ | 3.0メートル |
車体総重量 | 8,220kg |
乗客定員 | 45人 |
となっており、これを最高速度を時速94kmで走らせます。
このワイヤレス充電対応のEVバスを高速道路で走行させるのは日本で初の試みですが、高速走行実現のためには大電流の利用が可能でなければばいけません。それを可能にするのが、蓄電池とモーターの高い出力なのです。
東芝のリチウムイオン蓄電池には高いパワー(出力)を出す特性が備わっており、この特性を今回のEVバスに生かしたもので、蓄電池の新規開発は行わず既存のものを組み込み、それを新たに開発したモーターに合わせたものです。
実証走行テストには川崎市やANAの協力も得た
実証走行テストまでには多くの関係者の協力を得てきましたが、中でも川崎市とANAなの協力が大きく、充電システムを設置する用地では川崎市が、またEVバスを利用する乗客にはANAやANAグループの社員が協力してくれました。
ワイヤレス充電システムが設置されたのは、国家戦略総合特区に指定されている川崎市川崎区殿町の「キングスカイフロント」です。EVバスはここで充電を行った後、ANAの拠点がある羽田空港代にターミナルまで往復走行を行ったのです。
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充電時間が短く利便性抜群のワイアレス充電
今回のEVバスが搭載する蓄電池の容量は52.9kwhで、高速走行で空調を使用しないときの走行可能距離は約89kmです。実証走行テストでは約11kmの2拠点の間を1日3往復します。充電は継ぎ足しの形で使われますが、片道の走行に必要な電力が、僅か15分で充電できることが大きな特長です。充電方法はEVバスの運転席左側に組み込まれた充電操作用の表示・タッチパネルで行います。
まず停止位置が合っていることを表示パネルで確認し、パネル画面のボタンを操作するだけで充電が開始されます。その後、「満充電」が表示されたら発車となります。充電のために車外まで出て、充電ケーブルを着脱するような作業が無いため、極めて利便性が高く、しかも安全です。
今回のワイヤレス充電は送電量を損なわず法基準をクリアした
今回東芝が開発したワイヤレス高速充電システムは、85kHz(キロヘルツ)の周波数を利用し44キロワットの電力を伝送します。しかし電波法では、10kHz以上の高周波を利用する際は高周波利用設備としての許可が必要なことになっています。この課題をクリアするには、放送や他の無線通信を妨害しないように、許容値以下に落とさなければいけません。東芝と早稲田大学はその後も様々な研究を重ね、距離が10メートル離れた位置の電磁波の大きさを約10分の1に抑制することに成功しました。
これにより送電量を44kwから損なうことなく、高周波利用設備としての許容値を満たすことを可能にしたのです。
ワイヤレス充電システムと中型EVバス実証走行テストの特長
東芝のプレスリリースによりますと、今回のワイヤレス充電システムとEVバス走行テストの特徴は次のようになります。
ワイヤレス充電の利便性やCO2削減効果
当社は、ケーブル不用で充電が可能なワイヤレス充電システムを開発し、長寿命や高出力のリチウムイオン二次電池を搭載した中型EVバスの実証走行を実証します。本EVバスは、日本初の高速道路を走行するワイヤレス充電バスであり、川崎市とANAの協力を得て、川崎市殿町と羽田空港ANA拠点間を結ぶ11kmを走行します。この実証走行を通じてワイヤレス充電の利便性やCO2削減効果の検証などを行います。
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自社独自の充電パッドの構成を採用
ワイヤレス充電システムは、ケーブルを使わず地上の発電装置からバスに搭載された蓄電池に電気を送ることができるシステムです。運転席でのボタン操作だけで充電ができるため、充電時の安全性と利便性を向上させることが可能なシステムです。従来型の電磁誘導方式よりも送受電パッド間が離れた状態で送電することができる磁界共鳴方式に、さらに当社独自の充電パッドの構成を採用することなどにより、送電パッドと受電パッドが左右20cm、前後10cmまでずれていても充電することが可能になりました。
なお、放射エミッション値の基準を満たしているため、電波を利用する周囲の設備に影響を与えることはありません。
高頻度かつ短時間の充電に適している
本EVバスは、15,000回以上の高速充放電を繰り返しても劣化の少ない長寿命特性を持つリチウムイオン二次電池を搭載しているため、観光地や空港の巡回バスなどで求められる高頻度かつ短時間の充電に適しています。今回の実証走行の片道分の距離を走行するのに必要な電力を約15分で充電できます。またリチウムイオン二次電池の高い出力と、駆動装置の性能向上により、高速道路での走行も可能になりました。
今回の実証走行テストは、環境省委託事業である「CO2排出削減対策強化指導型技術開発の実証事業」の一環として2014年度から進めているもので、ワイヤレス充電技術は、早稲田大学理工学術院,神屋雄史教授研究室と共同で開発しました。同技術を搭載した小型のEVバスは2016年2月に実証走行を開始しています。
ワイヤレス充電システムの今後の展望は?
当社は、今後もワイヤレス充電技術を初めとした先端技術の研究開発を進めるとともに、リチウムイオン二次電池を多様な交通インフラに展開することによって、環境負荷低減と都市交通における利便性向上の料率に貢献していきます。
(出典)東芝プレスリリース
2016年5月31日
まとめ
今回東芝と早稲田大学の共同で開発された「ワイヤレス充電バスの妨害電波抑制技術」は、今後の都市交通の利便性を向上させるだけでなくC02削減により、環境負荷低減に大きく貢献するものと期待されています。