電力自由化になったら停電で大騒ぎに?

すでに2003年から企業や工場では、導入が進んでいる電力自由化。
2016年4月からは、一般家庭でも電力の小売りを自由に選べるようになりましたが、小売り業者をみると、これまで電力の供給とは無縁の業者ばかり。
そのため、利用者のなかには「電力自由化=停電のリスク」を強く意識される方もいるようです。
- 小さい電力会社と契約すると、停電になる可能性もある?
- 日本よりも早く電力自由化になっている他国ではどうなのか?
この2点を詳しく解説していきたいと思います。
電力自由化になっても停電が起きないワケとは?
結論から言いますと、電力自由化になったからと言って停電のリスクが増すことはありません。
国内の電力供給をみると、大きく3つの部門で構成されているのがわかります。
発電部門、送配電部門、小売り部門がそれです。
このうち停電に関係するのは送配電部門ですが、ここの仕組みは電力自由化後も全く変わらず維持されています。
ゆえに電力自由化が始まり制度が進んでも、停電のリスクが増すことはないのです。
細かく言うと、小売り部門の新電力会社が増えるのですから、送配電部門にも何らかの仕組みに変化はあって然るべきです。
しかし、今回の電力自由化では、簡単な取り決めを行なうことで、これまでと変わらない環境で送配電部門を稼働させました。
ですから、電力自由化以降も停電しにくい環境が維持されているわけです。
自分が契約している電力会社だけ故障や破綻したらどうなる?
理論的には停電のリスクが増えないことはわかるのですが、もう少し具体的な例で説明していきます。
電力の自由化が始まると、いろいろな小売り部門を担う会社が電力市場に現れてきます(これらの新電力会社を「PPS:Power Producer and Supplier(特定規模電気事業者)」と呼んでいます)。
つまり、同じ電線(系統)にいろいろな会社の電気が同時に流れるわけです。
この場合、送電量も増すように感じられるのですが、じつは複数の会社で同じ牌を分け合っていますので、イメージとして送電量は変わりません。
それよりも心配なのは、新しい電力供給会社が何かの故障で装置がダウンしてしまった場合は、そこと契約していた顧客に電気が供給されないなどのトラブルです。
電力自由化で、少しでも安い業者を使いたいというのは誰もが願うことですが、安い業者を選んでしまったために、正常に電気供給されなかったら何のための電力自由化かわかりません。
また、配電装置がダウンしてしまった会社の契約電力量があった場合、当該系統のバランスが崩れ、最悪停電してしまうこともあり得ます。
そうならないために、各地域の一般電気事業者(東京電力や関西電力など)は適正な電力を補う仕組みになっています。
簡単に言うと、東京電力や関西電力などの既存の電力会社が、小売部門ではライバルである新電力会社を助けているわけです。
また、新規の電力小売り業者が破綻した場合も同様です。
潰れた会社の責任はその会社が負わなければなりませんが、電気は私たちの暮らしに直結するライフラインですから、消費者保護の観点から勝手に電気供給を止めるわけにはいきません。
もちろん、この場合利用者には一時的に割高な電力を使ってもらうことになりますが、あらためて新しい電力会社を決めてしまえば済む話です。
ですから、故障しても破綻しても系統の電力供給は変わらず維持されているのですね。これが、今回の電力自由化なのです。
これだから停電はしない!電気の品質を安定させる制度設計
電力自由化は、新たな電力小売り業者を市場に呼び込みます。
そして、市場に顔を並べる「新入り」を保護するために、一般電気事業者には一肌脱いでもらっているわけですが、一般電気事業者もただで力を貸すわけではありません。
電気の品質安定機能「アンシラリーサービス」とは
電力は、その時々の需要量にあわせて当該系統に電気を送らなければなりません。
電力自由化においては、送配電部門の長でもある東京電力や関西電力、また東北電力や北海道電力といった各地域の一般電気事業者はその責任を担っています。
すでに述べた通り、これらの事業者は、電気の品質を安定させるべく周波数や電圧の増減に目を配っており、停電と言う最悪の事態を防いでいるわけです。
また一方では、「IPP:Independent Power Producer(独立系発電事業者)」が、電力自由化の流れの中で登場しています。
こうした新たな発電者は、もちろん既存の電力会社設備網を使用するわけですが、それと同時に彼らの発電設備の不具合などで発電不能に陥った場合、彼らに代わって電力を供給しなければならない義務も一般電気事業者にはあるのです。
最近耳にする「アンシラリーサービス」とは、一般電気事業者が行なっている周波数調整や電圧調整、予備電力の確保などを言います。
「アンシラリーサービス」は、電気の品質を安定させる制度の根幹です。
これを維持していくため、一般電気事業者はIPPからも費用を徴収しています。
海外の停電事例から学べる事
日本では、長く既存電力会社の独占状態が続きましたが、欧米の先進国では、すでに電力自由化に踏み切り、そこで電力自由化による電力不足や大規模な停電も経験しています。ここでは、米国で起きた2つの電力危機、大規模停電を取り上げ、前例から何を学べるのか見て行きたいと思います。
カリフォルニアの電力停電危機
1990年代の後半、米国では電力自由化への動きが多くの州で活発になりましたが、カリフォルニアで起こった大規模な電力不足は、計画停電・輪番停電の経験や、その後のカリフォルニアや周辺州の電力自由化の流れを止めてしまったことでも知られています。
日本では考え難いことですが、当時の米国では電力自由化によって、カリフォルニアにあった大手の電力会社は発電所を売却し、自らは発電せず他社から買電する動きが進みました。
また、電力会社の買電は長期の契約によるものではなく、すべて翌日の電力取引市場で決まるというものでした。
これでは、買電価格は安定するはずもなく、卸売り価格は高騰の一途を歩むことになったのですが、小売り価格は州公共料金委員会で規制されており、かろうじて価格だけは過度に上昇することはなかったようです。これにより、一時卸売り価格は800倍にも跳ね上がったと言われていますが、カリフォルニアの消費者は小売り価格の州規制で救われました。
カリフォルニアの電力危機は、エンロンを中心とした企業が人工的に電力不足を起こしたために引き起こされたと言われていますが、私たち日本人の感覚で見てみると、「自由の国アメリカ」だからこそ起こり得た電力危機と言えるのではないでしょうか。
また、エンロンは複数の有力政治家らとも繋がっていたようです。
日本では、既存の電力会社も含めて、政治との癒着を厳しく見ていかなければいけないでしょう。
⇒【電力自由化】カリフォルニア州の失敗とテキサス州の成功
北米東部を襲った原因不明の大規模停電
これは、2003年8月14日、北米東部を中心に広範囲で起こった大停電で、停電の範囲は北米中西部の一部やカナダオンタリオ州にまたがる地域も含んでいます。
完全復旧には29時間を要しましたが、被害規模は米国・カナダで5000万人とも言われ、停電による損失は約1兆円です。
この停電は、いろいろな原因が取り沙汰されましたが、これが原因と言うものは特定できていません。
ただし、カリフォルニアのような人工的に起こった電力不足と言うものではなく、何らかの原因によって発電システムがダウンしたものが未曾有の大停電を引き起こしました。
その中でも、停電の原因に考えられるものとして、一番には競争環境下にあるなかで、満足行く設備投資を行なって来なかったことがあげられると言われています。
北米東部の系統では、電気を買う量は倍になっているのに、設備投資は半分になったままということもいわれていました。
シンプルに、メンテナンスの不備だったことが停電の原因になっていたとも言われています。
いろんな発電業者が合併したために、ネットワーク設備等が現状に追いついていないことも原因のひとつにあがっています。こうしたヒューマンエラーは、どの国でも停電を引き起こす原因として注意しなければならないでしょう。
2つの国の停電事例から学べること
カリフォルニアの例はやや特殊ですが、北米東部の大停電には教訓としたい部分はあるでしょう。それは、将来に向けて十分な設備投資ということです。
ただこれは、電力の自由化には直接関係しないことですが、送電線など年数がかかるものに十分投資しておかないと、将来にわたって安定した電気は得られなくなってしまうからです。
電力自由化後、複数の電力事業者が同じ系統を使うことになるわけですから、このことも重要ではないでしょうか。
日本も海外と同じように停電になる可能性が?
日本ではまだ全面電力自由化がスタートしたばかりの段階ですが、海外の電力自由化によって発生した失敗例を繰り返してもらいたくないものです。
カリフォルニア州の失敗例に関しては発電能力が低下したことや電力の卸売価格が想定よりも上がったことが原因だったという見方もありますが、他にも原因があると考えられています。
電力自由化によって需要と供給のバランスにより価格が変動する市場原理主義に依存し過ぎていたこと、電力の仕入れ単価と売り単価で大きな差が生じてしまった時に、どのような対応策をとるべきなのかがきちんと考えられていなかったことも大きな原因になっていると考えられています。
日本でも電力自由化によって新旧電力会社が競争を繰り広げることが予想されていますが、同じような問題が発生するのではないかという懸念もされています。単純に価格の問題だけでなく、肝心の発電できる電力が少なくなってしまうのではないかという問題も考えられるのです。
お互いに顧客を奪い合うようにして競争が繰り広げられると、それぞれの会社は利益を追求するあまりにコストがかかる発電設備を持ちたくないと考えるようになります。
本来であれば大きな災害が発生した時など発電能力が著しく低下したり、電力の需要が急激に増えた場合などには電力のバックアップを行う役割を果たす大手の既存電力会社でも供給が追いつかなくなる可能性も考えられます。
このような問題が発生した時に、既存電力会社や新規参入した電力会社はどのような対応を取ってくれるのか、まだはっきりわからない部分も多いと考えられます。
⇒災害が発生した際には電力の安定供給は?電力自由化でどう変わる?!
停電に強いのは自社発電か?小売専門か?
全国各地に存在している既存の大手電力会社は、当然ながら自社の発電設備が存在しており、新電力会社のバックアップ役として活躍することになります。
新電力会社の中には自社で発電設備を準備し、自社で発電した電力を顧客に販売するという形にしている会社と、自社で発電設備を所有せずに他の会社から電力を調達して顧客に小売するという形の卸売りに徹する会社も存在することになります。
⇒新しい電力会社『新電力』の気になる会社をピックアップ!
これを踏まえて災害が発生して発電能力が急激に衰えてしまったという事態を想定してみましょう。基本的にはどの電力会社で契約していたとしても送電網に問題がなければ今まで通り電力は供給されます。
しかし、単価については大きく変化する可能性が生じることになります。特に自社で電気を発電できない新電力会社の場合は、他から高い値段でも電力を仕入れることになりますので、場合によっては顧客に転嫁される金額が最も高くなる可能性があります。
自社で発電している新電力会社の場合も、需要に対して十分な供給量が確保できなくなれば、バックアップ先の既存電力会社に頼らざるを得ない状況になります。
既存電力会社でも発電できる電力には限りがあるため、災害が発生して発電能力が更に低下した場合に関しては安定供給ができるとは確実に言い切れないはずです。
発電コストが安いと言われる原子力発電所が本格的に稼働すると電気料金も値下げされる可能性もあると言われていますが、安全性が疑問視されている現状ではあまり期待できないとされています。
結論としては、災害発生時に電力が不足しがちになった場合でも比較的安定した電気料金や供給について安心できると言えるのは、既存の大手電力会社か自社で発電設備を持つ新電力会社だと考えられます。
停電に強い電力会社を選ぶ方法のまとめ
日本は海外よりも圧倒的に停電になる可能性が低い国だと言われていますが、災害が発生して送電網に破損が生じると停電になる事はある意味仕方がないことかもしれません。
しかし現状の様に、停電から復旧するまでの時間がとても素早いのは、送電事業を行う事業者が優秀で、速やかに対応してくれるからだと言えます。
電力自由化によって契約する電力会社を変更したとしても、災害により送電トラブルが生じて停電が起こっても速やかに復旧工事を行ってくれる事は変わりないと考えても良いでしょう。
しかし、電力会社によっては問い合わせをした時に対応の仕方が全く違うという結果は想定されますので、きちんと顧客対応してくれる会社を選ぶようにすると安心できます。
また、新電力会社の中には自社で発電する設備を用意している会社と、全く発電設備がないため小売りすることしかできない会社が存在している事実を把握しておくことが大切です。
災害が発生したとしても、安定した価格で電力を供給する能力がある会社が良いと考えられます。現時点では既存の電力会社や発電能力のある新電力会社が有利になると言えます。